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急増する賃金切り下げ 実施の際の注意点
 内閣府が2001年12月6日に発表した2001年10月の景気動向指数を見ると景気の現状を示す一致指数はすべての生産関連の指標の変化方向がマイナスになっていることに加え、消費関連や雇用関連の指標もマイナスになっていることから、景気判断の分かれ目となる50%を10ヶ月連続で下回った。このような景気の低迷の中で企業は人件費の本格的な削減を進めているが、これまで人件費の削減といえば賞与や残業時間のカット、役員報酬や管理職給与のカットといった比較的社員に与える負担が小さな方法が中心であった。しかしここ数ヶ月の新聞報道を見ていると、これまで不可侵とされていた一般社員の月例給与を切り下げるという例が相次いでいる。確かに月例給与のカットは整理解雇と並び人件費のコスト削減効果が大きく、かつ即効性もあるため、本当の意味で生き残りを懸けている企業にとっては有力な最終手段の1つとなるであろう。

賃金の引き下げは個別の同意が大原則
 こうした状況から私どもにも「社員の賃金の切り下げを行いたい」という相談が多く寄せられるようになった。そこで本稿ではその実施における注意点をお伝えしたいと思うが、まず労働組合のない企業の場合には原則、全社員の個別の同意を得る必要がある。というのも賃金は労働契約の内容にあたり、それを不利益に変更する場合には労働契約の変更にあたるからである。労働契約は基本的に通常の企業間取引における契約とその性質は何ら変わるところがない。たとえば取引先に50万円の商品を販売したにも関わらず、一方的に「代金を10%値引きさせてくれ」と連絡があり40万円しか入金しないとすればみなさんはどのように対応するだろうか?これと理屈はまったく同じである。この例で言う50万円が社員にとっての賃金であり、10%の値引きが賃金切り下げにあたる。当然、同意なくして切り下げを行うことができないということをご理解頂けるのではないだろうか?

労働組合がある場合には異なった取り扱い
 しかし現実には多くの企業で賃金切り下げが実施されている。ここ最近、新聞紙上で報道されている大企業の給与カット予定企業のいくつかをピックアップしてみよう。
 1)日本通運 カット率3% 対象労働者数34,000人
 2)横川電機 カット率5% 対象労働者数 4,600人
 3)上新電機 カット率5% 対象労働者数 3,000人
 4)日新製鋼 カット率6% 対象労働者数 3,900人
 5)河合楽器 カット率4% 対象労働者数 2,700人
 このリストを見ると「これらの企業は対象労働者全員の個別の同意をもらったのであろうか?」という素直な疑問が沸くのではないだろうか。私もこれらの企業に個別に確認した訳ではないが、常識的に考えて3万人以上の社員全員の同意を得ることは不可能であろう。とすればなぜ賃下げが可能となったのであろうか。ここに一つの例外があるのである。その例外とは労働組合法第17条に基づく「労働協約の拡張適用」である。
労働組合法第17条(一般的拘束力)
 一の工場事業場に常時雇用される同種の労働者の四分の三以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは、当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に関しても、当該労働協約が適用されるものとする。

 つまり労働者の四分の三以上の多数でもって構成される労働組合が存在し、その組合と賃金切り下げに関して労働協約を締結した場合には、その内容が全労働者に適用されるのである。よって先ほどのリストに載っているような大企業の場合には賃金切り下げについて、個別の同意を得ることなく、組合との協議、協約の締結によって実施することが可能なのである。

社員に厳しい現状を伝え、十分に議論することが重要
 このように労働組合のある場合であればともかく、通常労働組合のない中小企業の場合には社員全員の個別同意なくして、賃金の切り下げを適法に行うことはできない。とはいえ企業の状況によってはどうしても賃金の切り下げを行い、現在の危機的な状況を乗り切る必要がある場合もあるであろう。そうした際には自社の置かれている危機的な状況をきちんと社員に伝え、それを理解してもらうと共に、今後の再建計画を十分に社員と議論することが重要である。賃金の切り下げは現在の危機を乗り切り、自社を存続発展させるための最終手段として行われるものであるが、同時に社員に非常に大きな不安を呼び起こすものでもある。それを行うことによって社員の士気が低下し、優秀な人材の退 職が相次ぐようでは本来の目的である自社の存続発展を望むことはできない。よって賃金切り下げを実施する際には役員報酬などのカットを行い、労使共にその痛みを分かち合うことで、自社の存続に向けて協力していくという前向きな風土を醸成すると同時に、個別の同意を得ることが必要である。また実務的には賃金切り下げの期間を限定し、再建計画に基づき一定の業績を達成した場合には元の賃金に戻すといった約束を行い、同意を得やすい環境を用意することもポイントとなろう。

文責:大津章敬


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